まずはじめに
先日観光庁から「スノーリゾート地域の活性化に向けた検討会の最終報告」というものが発表されました。
「スノーリゾート地域の活性化に向けた検討会」
http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kankochi/snowresort-kentou.html
内容的には、えらい人たちが集まりスノーリゾート地域の活性化に向けてどうのようにすれば良いのかいうものを議論・検討するものとなります。
資料は参考書数冊レベルの厚さになりますが、内容を端的にまとめると
- スキー・スノーボード人口が少なくなっており、やべーぞ!
- グリーンシーズン(夏)も頑張れ!
- 官民一体で情報発信、インバウンドを取り込め
- アフタースキーに力を入れよ!
という壮大なスケールとなっており、もはやスキー場単体ではなく、「スノーリゾート地域」とした運命共同体として活性化にむけて舵を切ならなければならない、ウインタースポーツ業界をとりまく状況は、そんなステージに現状あるのではと感じました。
なぜそのような状況なのか、
スノーリゾート地域の活性化に向けた検討会資料の内容を一部抜粋して紐解いてみたいと思います。
歯止めがかからない、スキー・スノーボード人口の減少
スノーボード人口: 260万人(2015年時点)
一言で言えば、ピークの半分まで減少しています。
※参照 : スノーリゾート地域の活性化に向けた検討会の最終報告
スノーボードとスキーの人口
年 | スノーボード人口 | スキー人口 |
1993年 | ― | 1,770万人 |
2002年 | 540万人 | 1090万人 |
2005年 | 520万人 | 710万人 |
2009年 | 420万人 | 720万人 |
2011年 | 340万人 | 630万人 |
2013年 | 290万人 | 480万人 |
2015年 | 260万人 | 480万人 |
※2015年の数字はレジャー白書2016年を参照
スノーボード人口はピーク時の半分
ポイントとしては、スノーボード人口はピーク時の半分になったということです。
一方スキーについては、1,770万人いた人口が480万人にまで減っています。
言えることは、スノーボード以上にスキーのほうが減少率は高い!ということです。(双方を顧客に持つスキー場はもっと大変。)
ちなみに、テニスの参加人口は580万人、サッカーは480万人、卓球は720万人、バスケットボールで400万人です。
スノーボード人口の260万人と比較してどう思うかはあなた次第。
具体的な取り組み
具体的な取り組みとしては、雪マジ!19が施策として取り上げられています。
ウインタースポーツ業界とは関係のない、リクルート社の取り組みです。
「雪マジ!19」とは、19歳はリフト券が無料になるキャンペーンです。当時は、斜め上な施策で「すごい!」と思いました。19歳がこぞってスキー場へ行ったという印象があります。
非常に面白いのは、下記の結果です。
2011年度に参加した19歳のうち、翌年20歳になってゲレンデを再訪問した割合は92%
そして、そのうち50%以上が5回以上訪問
19歳になる前からもともとスノーボードをやっている人もいるので一概には言えませんが、それを除いても、この施策によって明らかにリピーターが増えたということになります。
つまり、「なんらかのきっかけで1度でもスノーボード(もしくはスキー)をやってもらえば、その後、再度スキー場へ足を運ぶ機会が非常に高い」ということにあります。
とにかくスキー場へ行く「きっかけ」が重要ということになります。
上記以外の施策は、
- 日本の教育においてスノースポーツの普及を図る
- 高齢者をターゲットにして情報発信や環境整備をする
- 一度辞めてしまった人に再度アプローチする
という、今後の対応については、抽象的で具体策はゼロとなっています。
グリーンシーズン(夏)も力を入れて集客を図る
ここ数年でも白馬を中心にスキー場を抱える日本スキー場開発などでは、竜王マウンテンパークに「SORA terrace cafe」をオープンしたり、川場スキー場にスケートボードのランプやサバゲー施設、キャンプ施設などを併設して、グリーンシーズンの来客が増加しています。
同じく、ノルンみなかみ等のスキー場を複数持つクロスプロジェクトさんも同様です。
ですが、体力のある企業は良いものの、それ以外のスキー場の場合、あくまでスキー場単体だけでみれば、グリーンシーズンはなにもしないで維持費(特に人件費)を最小限に抑えるという考えもある意味非常に合理的です。
もちろん、遊べるコンテンツをあれば、周辺の飲食店や宿は儲かります。
ですがスキー場単体でみれば、スキー場だけが集客に力をいれて頑張っても、利益率が高いとは言えません。ウインターシーズンでさえ、平日は人が少ないことが多々あります。
そのためグリーンシーズンを盛り上げるには、スキー場だけの力や集客力では実現不可能であり、「スノーリゾート地域」とした運命共同体としてスキー場の周りのスポットを活性化する必要があるのでは思います。
今までメインの稼ぎ時であったウインターシーズンでの来客がジリ貧となっている。
であれば、「脱スノー」を目指すしか選択肢はありません。
スノーボーダーは、ピーク時と比べて半分になった。
であれば、グリーンシーズンに同じ来場者数を誘致できれば良いのです。
検討会資料では、重点項目の一つとしていますが、
これは、インバウンドの誘致にも通じる、今後のスキー場の存続を左右するといっても過言ではない最も大きな課題かと思います。
フランス モンブランへの観光客は、冬も夏も同じ割合
モンブランの年間の観光客は400万人
すごいのは、スノーシーズンに200万、グリーンシーズンに200万とちょうど50%の割合ということです。
ちなみに、白馬の場合、スノーシーズンのみで100万人程度と言われています。
同じく、スイスのツェルマットもサマーシーズンの割合が高いようです。
日本ではスキー場を始めとした地域は、ウインターシーズンがメインとなり、夏場は閑散としているイメージがあります。
上の写真は、僕がスイスのツェルマットで最も人が少ない10月頃に行った時の駅前の写真です。
10月という人が少ない時期でも駅前には、旅行者で溢れている状況でした。
僕は、スイスのツェルマット以外にもヨーロッパのスキー場へは色々と行ったことがありますが、そこで思ったのは、若者だけではなく、おじいちゃんおばあちゃんも非常に多くいるという印象でした。
冬場でもレストハウスでのんびり読書をしている人などもいました。
そしてサマーシーズンにおいても、特段ハイキングをする風でもなく、とにかくカフェで山を見ながらのんびりしている人が多く、日本人からすると非常に興味深い光景でした。
ですがサマーシーズンでもめちゃくちゃ混んでいます。
フランスやスイスの山岳リゾートの事例は、今回の報告書では具体的な内容がないため、今後スノーラボで掘り下げて記事にしてみたいと思います。
ただ、海外の事例で共通して言えることは、山頂までを含めた交通インフラがシーズン問わず充実している点です。
山頂エリアまで山岳電車やバスなどが日本と比べてかなり発達しています。
白馬でも、無料シャトルバスの運行などをここ数年積極的に行っておりますが、それでもなお、海外を比較すると利便性と言った意味では遠く及ばないのではないかと思います。
海外の場合、スイス ツェルマットでもカナダ ウィスラーでもニュージーランド クイーンズタウンでも、街がコンパクトに全てまとまっている地形となっており、日本のスキー場とそもそもの町の作りが違うことも要因などにあるかと思います。
官民一体で情報発信 / インバウンドの強化。
訪日観光客は80%以上がアジアから。
資料を抜粋すると下記のようになっています。
- スノーリゾート地域の活性化を図り、訪日外国人旅行者を呼び込むためには、スノーリゾートのブランディングを行った上で、ビジット・ジャパン地方連携事業や日本政府観光局(JNTO)によるビジット・ジャパン事業を活用し、海外の旅行博への出展等において、外国人にも評価の高い世界でも稀な雪質(パウダースノー等)と鉄道駅や空港からのアクセスが優れている点など日本の魅力についてプロモーションを行うなど、政府や地方公共団体、スノーリゾート関係者等が連携して国内外で戦略的かつ強力な情報発信を展開していくことが必要である。
- 情報発信にあたっては、スノーリゾートに関心が高いと考えられる欧米豪、東アジア・東南アジア、富裕層に訴求することが重要である。
- 情報発信においては、スノースポーツの振興に関する民間の全国横断的な組織の協力も得て取り組むことが望ましい。
- 現在、国内ではスノーリゾート地域が個別にポータルサイトを設け、独自に国内外への情報発信をしている。また、国内で横断的に情報発信を行うサイトとしては、「SNOW RESORT JAPAN」(一般社団法人日本スノースポーツ&リゾーツ協議会)、「JAPAN SKI GUIDE」(SURF&SNOW)等がある。
- 今後、既存の民間団体が設置している国内横断的な情報発信を行うポータルサイトへの支援の検討を含め、我が国のスノーリゾートに関するオールジャパンでのポータルサイトの充実等による国内外への強力な情報発信が必要である。
つまり、国内だけではなく、海外からの継続的にスキー・スノーボード客を誘致するために情報発信を行う必要があるということになります。
具体的な情報発信のウェブサイトとして「SNOW RESORT JAPAN」(一般社団法人日本スノースポーツ&リゾーツ協議会)(http://snowresortjapan.com)が掲示されています。
みなさんのぜひSNOW RESORT JAPANのウェブサイトを見てみてください。
コンテンツの少なさにびっくりします。しかも主要なキーワード(英語)におけるGoogle検索でほとんど「圏外」となっています。つまり検索にひっかかりません。
僕が思ったこと
手段は問わない、とにかくスキー場に足を運んでもらうこと
雪マジ19で一度スキー・スノーボードをやった人がリピーターになる可能性が非常に高いという明らかな結果がでています。
「なんらかのきっかけで1度でもスノーボード(もしくはスキー)をやってもらえば、その後の再度スキー場へ足を運ぶ機会が非常に高い」のです。
個人的には、以前にもツイートをしましたが、下記をやってほしいと思っています。「雪マジ!19」にてリピーターが多くなるということは実証済であるのであれば、国からの助成にて社会実験としてやってみたいもらいです。
スキー場の集客のために、21歳以下はリフト券無料。
その家族は、年齢関係なく1人までリフト券無料。にすれば息子が親(もしくは逆)に「スキー場に連れて行ってくれ」となり、昼は親が払うからスキー場にお金が落ち、家族の思い出もできる。
社会実験としてどこかのスキー場で試してほしい。— スノーボードモンスター (@MONSTER_SNOW) 2017年7月5日
思い出ができれば、将来的にその子供が親になったときに同じような体験をさせるケースも多いのではないかと思います。
とにかく足を運んでもらえれば、家族の人数分、必ずそのスノー地域にお金が落ちます。
別に、家族の中で滑らない人がいても良いと思います。
おいしいコーヒーと共にレストハウスでのんびりしていれば良いかと思います。
ですが、ここでも問題があります。
例えば、スキー場とレストハウスが別会社ですと、スキー場にメリットはなくなります。
やはり、行き着く先は、スノーリゾート地域全体として考える必要があるということになってしまいます。
絶対的なアイコン的な存在
野球でもサッカーでも、スケート、水泳、卓球でも、国民の誰もが知っているアイコン的な存在のプロフェッショナルがいます。
アイススケートであれば「浅田真央選手」、卓球であれば「福原愛選手」など、競技をやったことがない人であっても誰もが知っている存在です。
スノーボードの場合はどうでしょうか?
僕ならば「國母選手」です。
ですが、スノーボードをやらない人に聞いても、答えは「わからない」と言われるケースが多いのではないでしょうか。
これはメジャーなスポーツの中では異例かと思います。
子供を水泳スクールに連れていくと、競技用のグループでは萩野選手や瀬戸選手のポスターなどが貼ってあり、憧れの的になっています。子供以上に親が。
スノーボードにおいては、明らかに日本人の競技レベルは世界に通用する高いレベルです。
スノーボードの場合、世間からはあまり良い印象を持ってもらえないスポーツではありますが、その反面で非常にすばらしい選手が輩出された時には、全てが覆るような気がします。
例えば、巨大企業達から次々にスポンサーを獲得している鬼塚雅選手のような若い選手が今後オリンピックでメダルをとり、それがこれからにつながれば、時間の問題でスノーボード業界にもアイコン的な存在が生まるのではないかと思います。
官民一体で情報発信ではなくて、いかにユーザーが情報を発信してもらうかのほうが重要
「スノーリゾート地域の活性化に向けた検討会」の報告書では、インバウンドの重要性とそのための情報発信が重要としています。そして独自の情報発信ではなくてポータル的な情報サイトにてオールジャパンでのポータルサイトの充実や支援等を挙げています。
検討会の考える「情報の方向性」が逆だと感じました。
ここ数年のSNSなどの動きなどをみても、観光においては情報を発信することよりも、ユーザーに情報を発信してもらうことのほうが重要な時代になっているのかと思います。
考えるべきは、「いかに情報を発信するか」ではなく、「いかに情報を発信してもらえるか」なのではないでしょうか。
白馬でも、経営が上手な宿などは、宿自体が情報を発信するよりも、トリップアドバイザーなどでいかにユーザーが情報を発信してもらえるのかに重点を置いています。
ユーザーがSNSで拡散してもらえるような、スキーやスノーボードだけではなく、そこにさらにプラスαの体験を提供することが重要なのではないかと思いました。
インバウンド(訪日観光客)は2タイプ、ターゲットを絞る必要がある
訪日観光客数は、2016年で2400万人となっています。2017年はもっと増えると予想されています。
その中で、日本にくるスキー・スノーボード客のインバウンドには2タイプあると思います。
1:欧米人を中心に日本のパウダーなどを目的としたインバウンド(観光客全体からするとごくわずか)
2:中国・韓国をはじめとした完全初級者でスキー体験を目的としたインバウンド(観光客全体の8割)
前者は、欧米の主に富裕層などを中心としたインバウンドです。
前者はほとんどが上級者です。そして後者は、ほとんど初級者です。
2016年の観光庁の推計値では、前者に位置するオーストラリア人の割合は1.9%となっています。
にも関わらず、例えば白馬の来場者における外国人の割合は、オーストラリア人が54%を占めています。
※2016年国別来場者数 日本スキー場開発2017年7月期第2四半期 決算説明資料参照
白馬にいると欧米の外国人が非常にたくさんいるという印象がありますが、これは全体からするとごく僅かということになります。
そして、日本の観光客の8割近くがアジアからの観光客です。
冬の白馬ではレストランはどこも外国人だらけで満員御礼、「夕食難民」という問題も表面化されています。(夕食難民を回避するため、隣町の大町市に無料バスを運行させています)
ですが、その白馬で過半数を占めるオーストラリア人が、観光客全体の1.9%ほどしかいないという事実に驚きました。
文化や所得水準も違えば、スノーボードのレベルも違う、そしてスキー場で滑る目的も違います。(前者はがっつり滑りたい、後者は体験をしてみたい)
その2タイプをきちんとセグメントしてうまく取り込んでいく必要があるかと思います。
インバウンドにおけるポテンシャルは恐ろしいほどあるかと思います。
まとめ
結局のところ、このままスキー・スノーボード人口が増加しない限りは、あくまで客の取り合いであり、集客できるスキー場とできないスキー場の差が激しくなり、どんどん淘汰されていく状況になるのかと容易に想像ができます。つまりゼロサムの状態となります。
海外からであろうと国内からであろうと、スキー・スノーボード人口が増加しない限りは状況は厳しく、状況を打破するにはスキー場だけではなく、宿やスクールを含めて運命共同体のスノーリゾートとして、大きく舵を切らないといけないということになるかと思います。
ですが、日本のように小さい民宿や飲食店が多い中で、利害関係を調整しながら運命共同体として突き進めて行くというのは、正直なところ、そんなことできるのかと!?と思うところもあります。
特にスキー場のように田舎にあり高齢者も多い地域でです。
「スノーリゾート地域の活性化に向けた検討会」の資料では何度も「協力」という言葉がでてきます。
自分が今回資料を読んで思ったのは、非常に残念ですが、資料の将来的な展望とは逆の意味で、「自社で全てのサービスを完結させることができる、体力のある企業が勝つ」ということだと思ってしまいました。
つまり、スキー場も、宿も飲食もレンタルやアクティビティーもアフタースキーも、お金を使うサービスを全て自社で(もしくは提携先を含めて)完結させることができる企業です。
もちろん個々の企業が地域として連携してうまく機能できれば話は別です。
MapPornを参照すると、スキー場の数は1位がアメリカ(428箇所)で、2位が日本の305箇所となっています。
近年のアメリカではスキースノーボード人口が1,000万人程度と言われている中で、日本のスキー場数は決して過剰な数ではありません。(長野経済研究所の資料によると、アメリカのスキー場数は1982年には735箇所あり、実に40%のスキー場がなくなっています。)
日本にはスキー場以外にも温泉などをはじめとした観光スポットが多数あります。
訪日観光客も含めて、今後のウインタースポーツ業界はスキー場だけではなく、周りにとりまくコンテンツも含めて一致団結すればかなり盛り上げることができるのではと思います。
そして、今必要なのは「協力できる体制づくり」なのではないかと感じました。
参考:観光庁 スノーリゾート地域の活性化に向けた検討会
http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kankochi/snowresort-kentou.html
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